サウスカロライナ大学生物学科のティモシー・ムソー教授。汚染水に含まれる放射性物質のトリチウムのリスクについて解説した。
政府と東京電力(以下東電)は、東電福島第一原発敷地内に貯留されている「多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)」=汚染水を今年夏〜秋ごろから海に放出するとしています。
この汚染水に含まれる放射性物質のトリチウムについて、政府と東電は人体に及ぼす影響が極めて小さいという安全キャンペーンをおこなっています。
これに対して、米国サウスカロライナ大学生物学科のティモシー・ムソー教授は、トリチウムが人体のがん発生に及ぼす影響を体系的に調べた研究はなく、生態系に及ぼす影響調査は不足していると主張しています。
「科学的に安全」とは?
浪江町請戸漁港から見た東京電力福島第一原発。2023年1月。
浪江町請戸漁港から見た東京電力福島第一原発。2023年1月。
みなさんは、「科学的に安全」と聞いて、どんなことを想像しますか?
“研究者・科学者によって証明された安全性“と思う人が多いのではないでしょうか。
ところが、実はこの言葉にはまやかしがあるのです。
自然科学系の研究者は、基本的には事実に基づき、実験や研究の成果を論文にして発表します。
そこには「安全(safety)」とは書かれていないのです。
同様に、「危険(dangerous)」とも書かれていません。
では何が書かれているのでしょうか?
その例として、「ある部分までは安全だが、ある部分は危険かもしれない」というように書かれています。
これは、科学論文を書く際に、最も基本的な決まりです。
科学は、絶対の安全(もしくは危険)は保証しません。
科学に基づいて安全か危険かを決めるのは、私たち社会の側なのです。
さて、国と東電は「多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)」=汚染水について、「科学的に安全」と強調しています。
これは本当なのでしょうか?
生物学的影響をもたらすトリチウム
東電福島第一原発から約1km沖の海面に突き出した放出口の構造物。2023年1月。
東電福島第一原発から約1km沖の海面に突き出した放出口の構造物。2023年1月。
2023年4月、ティモシ―・ムソー教授は、トリチウムに関連する科学文献約70万件を調査し、トリチウムが人体などに及ぼす生物学的影響を扱った約250件の研究を分析して、文献レビューをまとめました。
分析の結果、大部分の論文は、トリチウムによる被ばく、特に内部被ばくがDNAの損傷、生理機能と発達の障害、生殖能力と寿命の低下、ガンなどの病気のリスク上昇といった、重大な影響をもたらす可能性を示していました。
多くの論文が、DNAの一本鎖および二本鎖切断、優性致死突然変異の増加、あらゆる種類の染色体異常、遺伝的組換えの誘発などを報告していました。
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