デリスキング戦略
中国はここ数年、強硬な発信が逆効果であると認識したのか、そうした表現をやや抑えてきたように見えた。だが今回の一件は、その自制が一時的なものだったことを示している。台湾や主権が関わると、古き本能が再び表面化する。
中国政府は国民に対し日本への渡航を控えるよう呼びかけ、日本への留学にもリスクが高まっていると警告した。16日には、中国海警局の武装船4隻が日本の実効支配下にある尖閣諸島周辺の係争海域を航行した。同時に、中国国内の映画館では日本映画2本の上映が延期された。
日本にとって中国は最大の貿易相手国で、貿易総額の約2割を占める。日本の製造業は重要部品のサプライチェーンで中国に大きく依存しており、日本はまた、中国人観光客に人気の目的地でもある。
こうした相互依存関係は、戦略上の脆弱(ぜいじゃく)さにもつながっている。中国はこれまでも外交関係が悪化すると、輸入規制や観光抑制、消費者を巻き込んだボイコットなど経済関係を「武器化」してきた。
17日の東京株式市場では、観光関連銘柄や小売株が下落した。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によると、現時点で中国政府の渡航警告が日中間の航空需要に与える影響は限定的だが、エスカレートするリスクは現実的だ。
韓国が17年に在韓米軍向けに高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備した際、中国は自国民の韓国への団体旅行を停止した。日本政府はこうした中国の対応を十分承知している。例えば13年、安倍氏が靖国神社を参拝した際、中国と韓国から強い非難を浴びた。
高市政権の次の一手は慎重を要する。日本政府は緊張緩和を目的に外務省のアジア大洋州局長を北京へ派遣したが、大きな効果は期待しにくい。むしろ中国からさらに強硬な反応が出る可能性が高い。
22日に始まる南アフリカでの20カ国・地域(G20)首脳会議は融和のきっかけになり得たが、中国は両国間の緊張を理由に李強首相が高市氏と会談しない方針を明らかにした。
より大きな問題は、トランプ大統領が、貿易交渉が順調に進む限り習氏がインド太平洋で力を誇示することを容認しているように見える中で、自信を増す中国とどう向き合うかだ。
日本は主権問題では一歩も引かず、同時に感情的な応酬を避けるべきだ。そのためには、重要資源の代替供給源を確保し、強靱(きょうじん)なサプライチェーンを構築するとともに、日本製品の新市場を開拓するなど、デリスキング(リスク低減)戦略を加速させる必要がある。
関係悪化後の3年間にわたり中国から圧力を受けたオーストラリアの経験は、市場の分散・多角化と戦略的対応によって、中国の強硬姿勢を乗り切ることが可能であることを示している。
中国が今、日本に対して取っている態度は、戦狼外交がいまだに続いているとの再警告にほかならない。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-11-18/T5W93...
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