
昭和史最大のスパイ事件と言われる「ゾルゲ事件」と、その中心的日本人メンバーであった朝日新聞記者「尾崎秀実(おざき ほつみ)」について、その背景、活動内容、そして悲劇的な結末まで詳しく解説します。
この事件は、単なるスパイ小説のような話ではなく、第二次世界大戦の行方、特に独ソ戦の勝敗に決定的な影響を与えたとされる、世界史的にも非常に重要な出来事です。
1. ゾルゲ事件とは?
概要 1941年(昭和16年)から1942年にかけて、日本の特別高等警察(特高)によって摘発された、旧ソビエト連邦の軍事諜報員による大規模なスパイ事件です。
主犯: リヒャルト・ゾルゲ(ドイツ人、ソ連軍参謀本部情報総局のスパイ)
日本人主犯格: 尾崎秀実(朝日新聞記者、近衛文麿首相のブレーン)
活動目的: 日本の対ソ連参戦の有無(北進か南進か)を探り、ソ連に報告すること。
2. 尾崎秀実(おざき ほつみ)という人物
尾崎は単なる一介の記者ではなく、当時の日本で最高レベルの知性を持った「支那(中国)通」のエリートでした。
朝日新聞記者としての顔: 上海支局での勤務経験があり、中国情勢の分析において右に出る者はいないと評価されていました。その分析力は軍部や政治家からも一目置かれていました。
政治の中枢への接近: 当時の首相・**近衛文麿(このえ ふみまろ)**にその才能を愛され、首相官邸の政治アドバイザー(嘱託)として国策研究会(昭和研究会)に参加。国家最高機密に触れられる立場にいました。
裏の顔(スパイとしての動機): 彼は金銭目的のスパイではありませんでした。彼は共産主義へのシンパシーを持っていましたが、それ以上に**「日本が中国との泥沼の戦争を拡大し、破滅に向かうのを止めたい」「世界的な共産主義革命によって日本を救いたい」**という独自の信念に基づいて行動していました。
3. ゾルゲと尾崎の関係と活動
二人は上海時代に出会い、意気投合しました。ゾルゲにとって、日本の政権中枢の情報を正確に入手できる尾崎は、代わりのいない「最高の情報源」でした。
諜報活動の手法
映画のような潜入や盗聴ではなく、主に**「合法的な情報収集と分析」**が行われました。
・尾崎が近衛首相の側近や軍部との会話から、政策の方向性を聞き出す。
・その断片的な情報を、自身の高度な分析力で統合し、「日本の次の一手」を予測する。
・それをゾルゲに伝え、ゾルゲが無線でモスクワ(ソ連)へ打電する。
返信する