橋本:今回お声掛け頂いてありがとうございます。経歴という意味でも専門分野という意味でも、倉本さんとは今まで全く交わりが無かったのに、1言えば100伝わるみたいな感じになったのは、正直驚きました。今まで「仲間」だと思っていた人達との距離が遠くなってしまったのは悲しい反面、ものすごく強力な新たな理解者を得られたみたいで、それはとても心強く感じています。
さて、ご質問に答えると私のキャリアは国家公務員からスタートしています。具体的に言うと外務省の職員でニューヨークにある国連に常駐する、日本政府国連代表部社会部の人権人道問題担当専門調査員をしていました。で、その1年目に9.11(米同時多発テロ事件)が起こってしまうんです。
倉本:それはメチャクチャ象徴的というか、「単一の正義の世界観」が吹き飛んでしまうような大変な体験ですね…。
橋本:毎年9月には国連総会があって、その時期が繁忙期ピークになることもあり、事務方は1日20時間ぐらいずっと事前交渉のための会議漬けの毎日なんです。そんな時に、結果として誤報でしたが「3機目の飛行機が国連本部ビルに向かっているという情報があるので、速やかに退去してください」というサイレンが鳴りました。
当時はもともと「24時間働けますか」みたいな世界でしたし、事件発生から2週間ぐらい、ずっと黒い煙がモクモクモクモク立ちのぼる中で邦人保護のチームに緊急配属されました。ただ私はすぐ急性胃腸炎みたいになっちゃって、戦力としては全然使えなかったという苦い思い出があります。
テロリストにとって、ワールドトレードセンターのツインタワーは「悪の象徴」だったわけですよね。資本主義の悪者たちが自分たちの国にも手を伸ばしてきて、居場所がない人が生まれてしまい、それが最も悪いかたちで弾けてしまった出来事だったと思っています。当然テロは悪であり絶対に許されてはならないです。ただし、テロという絶対に許されない方法を使って彼らが訴えたかったことの「中身」には耳を傾けなければ、テロが撲滅されることはない。
その結果、最も凄惨な形で被害を被るのはいつも無辜の市民たちです。テロリストにとって「悪の象徴」だったワールドトレードセンターには富士銀行(当時)のニューヨーク支店もあって、日本人も20人以上犠牲になっています。また、その後の20年以上の「テロとの闘い」に敗けた結果が今のアフガニスタンです。
倉本:確かに、9.11テロみたいな出来事を体験すると、物事が「こっちが正義、あいつらは悪」では済まされないということを本能レベルで痛感させられるところがありそうですね。
もちろんテロ自体は許されないことですが、しかしアメリカが生み出した秩序によって割を食った人たちが、その怨念を徹底的にまとめあげてぶつけてくる現実がある時には、最終的には「彼らが何を考えていて、何を許せないと思っているのか」を切り捨てずに理解することがどうしても必要になりますね。
「欧米VS非欧米」「アメリカVS反アメリカ」という秩序の中で、「俺たちが正しくてお前たちは間違ってる(だから全部言うとおりにしろ)」という構造では何も進まなくなってしまう。
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