「ノーモアベット」
ディーラーが静かな声でチップの受付終了を告げると、男の前に2枚のトランプが配られた。真剣な眼差しで伏せられた
カードを見つめた後、すばやく表に返す。結果は……男の勝利だ。だが、周囲の客から祝福されても、表情が変わるこ
とはない。ディーラーから渡されたチップを手元に引き寄せると、すぐさま次の勝負へと向かった――。
元大王製紙会長の井川意高(いかわもとたか)氏(58)が、関連会社から借り入れた106億円を海外のバカラ賭博で失っ
たとして、特別背任容疑で逮捕されたのは’11年のことだった。最高裁まで争ったが、懲役4年の有罪判決が確定し、
’16年に仮釈放。その後は「バカラは止めた」と公言し、昨年10月の『現代ビジネス』のインタビューでは、
「昔みたいなギャンブルはもうしません。ギャンブルは痺れるから楽しいのであって、どうでもいい小銭をかけても意味
ないんです」
とまで言い切っていた。
だが、井川氏の胸の内では、″闘志″がまだ燻っていたようだ。
3月18日、韓国・ソウル市郊外のカジノに、″どうでもいい小銭″を賭け続ける井川氏の姿があった。
「私が井川さんに気づいたのは午後9時過ぎです。『ハイリミットゾーン』というカネ持ち客がプレイするルームで、う
な重を頬張りながら、4~5人の男女と楽しげにバカラをプレイしていました」
こう語るのは、たまたま友人とカジノ旅行に訪れていたAさんである。
Aさんは井川氏がどのくらいの勝負をしているのか気になって、テーブルを覗き込んだ。井川氏の前に置かれたチップは
たったの3枚だった。
「100万ウォン(約10万円)のオレンジ色のチップが2枚、10万ウォン(約1万円)の青チップが1枚、日本円で20万
円ちょっとです。このルームの最低賭け金は50万ウォン(約5万円)なので、4回分のチップしか持っていなかった。
井川さんにしてはチンケな勝負しているなと思いましたが、その時は、友達と軽く遊んでいるだけだろうと思ったんです」
それから2時間後――。Aさんはふと脇を見やり、目を疑った。隣のテーブルに井川氏が座っていたのだ。
Aさんがプレイしていたのは、「平場」と呼ばれるテーブルで、最低賭け金は10万ウォン。数枚のチップを握りしめた庶
民プレイヤーに混ざり、井川氏は少額チップをチコチコと張っていたのである。
「カネがなくなり、ハイリミットでは遊べなくなったのでしょう。友人を置いて一人で真剣勝負していました。持って
いたチップは十数万円分。罫線(出目表)を穴が空くほど見つめ、勝っても負けても表情を変えません。1勝負終える
ごとにじーっと罫線を見つめ、ここぞと感じた時に、大きな張りをするのです」
すると、運が向いてきたのかチップは増え、数十万円分ほどに。井川氏は再びハイリミットゾーンに帰っていった。
だが、Aさんが19日午前4時頃に部屋に引き上げた時には……続く
https://news.yahoo.co.jp/articles/964a79ed41a3885527068...
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