パレスチナ自治区のヨルダン川西岸で、イスラエル人の入植者が、水源を奪うことでパレスチナ住民を追い出しを図っている。ガザ地区での昨年10月の戦闘開始後、人権団体のまとめで16の集落が消滅した。ベンヤミン・ネタニヤフ政権の一翼を占める極右勢力が主張する「西岸の併合」に沿った現状変更の動きだ。(ヨルダン川西岸ラスアイン・アウジャ 福島利之)
ヨルダン川西岸のオアシスの町ジェリコから北10キロのラスアイン・アウジャ集落には、西岸有数の水量が湧く泉がある。降水量が少ない砂漠での水は貴重で、家畜のほかバナナやナツメヤシの栽培に使われてきた。生活には不可欠だ。
今月5日、パレスチナ人の家族連れが水浴びをしていると、小銃や大型ナイフを持った入植者の若者数人が大声で騒ぎ、露骨に嫌がらせを始めた。他都市から家族8人で家族8人で遊びに来たパレスチナ人の教師アリフ・シャワラさん(43)は「安心して子どもを遊ばせられない」と敷物を畳み、引き上げた。
アウジャ集落には約150家族、400人ほどのパレスチナ人の遊牧民が住み、子羊やミルクを売って生活する。しかし、数年前から近くの入植地の入植者の襲撃で倉庫を破壊されるなどした。今年4月、泉近くにテントを建てた非公認の入植地(アウトポスト)がつくられると、襲撃は激化し、住民は泉に行くのも阻まれるようになった。
集落に40年以上住むムハンマド・ラシャイドさん(50)は昨年、500頭の羊を飼っていたが、入植者に盗まれ、今は50頭程度という。羊に水を与えるのも容易ではない。パレスチナ自治政府に介入する権限のない地域で、治安を担うイスラエル軍や警察に連絡しても対応しないという。ラシャイドさんは「誰も守ってくれない」と嘆く。
入植者による嫌がらせは、集落からの住民追い出しが狙いだ。銃を手に泉に現れた20歳代の入植者男性は「西岸の全ては神が我々に与えた土地だ」と主張した。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、西岸では昨年10月以降、入植者の暴力は1050件発生し、107人が死亡した。財産被害は828件に上る。人権団体ベツェレムのまとめでは、今年4月までに入植者の襲撃などで157家族、1056人が家を追われ、16集落が消滅した。
イスラエル政府は支配地域の拡大に向け、入植者を事実上の先兵として利用している側面がある。
軍や警察が駆けつけても、入植者を保護することが多いとされる。入植者は極右政党の支持母体で、2022年に発足したネタニヤフ連立政権に極右が入閣して以来、襲撃は激化したという。入植者が奪った土地やアウトポストは、後に政府が「イスラエルの土地」と宣言し、入植地となるとみられている。
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